最高裁判所第一小法廷 平成5年(オ)1128号 判決 1997年12月18日
上告人
古谷勝
外三名
右四名訴訟代理人弁護士
村上重俊
同
大萱生哲
被上告人
古谷辰四郎
右訴訟代理人弁護士
大和田義益
同
本間裕邦
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの費用とする。
理由
上告代理人村上重俊、同大萱生哲の上告理由について
民法五〇一条五号には、保証人と物上保証人の間における弁済による代位の割合は頭数によるべきことが規定されているところ、単独所有であった物件に担保権が設定された後、これが弁済までの間に共同相続により共有となった場合には、弁済の時における物件の共有持分権者をそれぞれ一名として右頭数を数えるべきものと解するのが相当である。けだし、弁済による代位は、弁済がされたことによって初めて生ずる法律関係であるところ、弁済の時点においては、各相続人がそれぞれ相続によって自己の取得した共有持分を担保に供しているのであるから、各相続人それぞれが民法五〇一条五号の物上保証人に当たるというべきであるからである。当初から共有に属していた物件について全共有者が共有持分を担保に供した場合には、共有者ごとに頭数を数えるべきことは明らかであり、この場合と、単独所有であった物件に担保権が設定された後に弁済までの間に相続又は持分譲渡等により共有になった場合とで、頭数を別異に解することは、法律関係を複雑にするだけで、必ずしも合理的でない。確かに、相続という偶然の事情により頭数が変化することは当事者の意思ないし期待に反する場合がないではないが、このように頭数が変化する事態は、保証人の増加、担保物件の滅失等によっても起こり得ることであり、弁済時における人数と解することにより法律関係の簡明を期するのが相当である。
これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない。
よって、裁判官遠藤光男の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
裁判官遠藤光男の反対意見は、次のとおりである。
私は、民法五〇一条五号の「頭数」に関する多数意見の判断には反対であり、原判決は破棄を免れないと考えるので、この点についての私の意見を述べることとする。
多数意見は、単独所有であった物件に担保権が設定された後、これが弁済までの間に共同相続により共有となった場合には、共有持分権者をそれぞれ一名としてその頭数を数えるべきであるとするが、私は、この場合の頭数は、相続人全員で一名として数えるのが相当であると考える。けだし、多数意見のような考え方を採るとすると、物上保証人の死亡という偶然の事情によって頭数が増大化することに伴い、保証人が物上保証人との間において代位をする割合がにわかに減少し、かつ、法定相続人の数いかんによってその割合が変動することになるが、このような結果をもたらすことは、明らかに不合理といわざるを得ないからである。
また、民法五〇一条四号、五号の規定は、代位者相互間の利害を公平かつ合理的に調整するについて、代位者の通常の意思ないし期待によって代位の割合を決定するとの原則に基づき、担保物の価格に応じた割合と頭数による平等の割合を定めたものであるところ(最高裁昭和五七年(オ)第七四九号同六一年一一月二七日第一小法廷判決・民集四〇巻七号一二〇五頁参照)、担保提供後における物上保証人の死亡及び法定相続人の数いかんという偶然の事情によって、その代位割合に変動が生じることを認めることは、代位者相互間の利害を公平かつ合理的に調整しようとする法の理念に反するばかりでなく、代位者の通常の意思ないし期待にも反するものというべきである。
したがって、亡古谷淑子が設定した根抵当権については、同人の相続人全員でその頭数を一名と数えるべきであり、これと異なる原判決には、民法五〇一条五号にいう「頭数」の解釈を誤った違法があるといわざるを得ない。
(裁判長裁判官遠藤光男 裁判官小野幹雄 裁判官井嶋一友 裁判官藤井正雄 裁判官大出峻郎)